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2005.01.25

■沈黙 古川日出男 幻冬舎

「13」では片目が色覚異常の男の子が色彩を追求する話し。今回は耳の聞こえなくなった男が「音楽」を求める。色彩や音楽という文章化しづらい対象を表現しようとする試みにまず敬意を払いたい。そしてかなり成功していると思います。古川氏の文体は音楽を表現するための独特のリズムを持っています。
話しは非常に重層的で、戦時中のスパイとして活動していた大滝鹿爾がまず登場。彼は「獰猛な舌」を持っている。そしてその息子大滝修一郎は耳が聞こえなくなりながらも幻の音楽「ルコ」を探求している。さらにその縁者に当たる薫子という美大生が「ルコ」捜しを続ける。「ルコ」は「生きるための音楽」だという。さらに彼女の大伯母と弟の存在。
とにかく圧倒的に情報量が多くて、大滝鹿爾、大滝修一郎、薫子のそれぞれを主人公にして十分に一冊の本になりそうな物語をはらんでいる。それなのに、彼らはスパイラルのように過去と現在が、現実と夢が入り交じりながら進んでいったり、戻ったり・・。
なんだか、凄いぞーとは思ったのだけど、この3者の物語を重ね合わせた意味が実はもうひとつよくわからないのだった。読後感としてまとまりのなさを感じてしまう。それぞれ別の物語でよいのになあなんて、思ってしまった。特に薫子と大伯母さんが一緒に暮らすエピソードの美しい生活感がよかったのだけど、この本のなかで妙に浮いているような・・・。古川日出男・・・うーん、ますます不可思議だ。

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